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Interview

菊地成孔
スペシャルインタビュー

すべての映画は恋愛映画である———

音楽家・菊地成孔が語る恋愛映画の良作とは

未知の映画との出会いは心踊らされるもの。今回は、その膨大な知識をもとに、映画に関する執筆活動も多数行う、音楽家の菊地成孔さんにインタビュー。去る5月にはSPANK HAPPYとして、恋愛の甘酸っぱい感覚を喚起する軽やかなラブソング「夏の天才」をリリースした菊地さんに「恋愛映画」をテーマにお話を伺いました。話題は恋愛映画を契機に、現代における恋愛のあり方までに展開。J:COMの映画専門チャンネルで配信中の作品から、恋愛を描いたおすすめの作品もご紹介いただきました。

恋愛は映画における「ダシ」

菊地成孔 ー 菊地さんがお考えになる、優れた恋愛映画とはどのようなものでしょうか。

菊地:まず、いかなる映画からも恋愛の要素を100%排除するのは難しいですから、極論を言えば「恋愛映画」というジャンルは、存在するとも、しないとも言えます(笑)。恋愛というのは、映画においてはダシみたいなもので、どんな作品にでも入っています。ダシだけを飲むことも可能ですが、それはどちらかといえば変わった行為ですよね。ですから、恋愛とは無関係のように思えるジャンルの映画であっても、その中で描かれている恋愛が非常によい場合もある。つまり、必ず何か恋愛とは別の要素との抱き合わせになっているわけです。
特に、青春映画とはかなり高い確率で包含関係にあります。青春は慢性恋愛状態のような期間ですから。そういった条件のもとに恋愛映画について考えてみると、仮説として「観ている間、観客が恋愛をしているような気分になる状態」に持っていける映画は、すばらしい恋愛映画であると言えるのではないでしょうか。図式的に恋愛が物語を動かす契機として描かれたとしても、その映画を鑑賞しながら、恋をしている気分にならないものは恋愛映画としては弱いですよね。

ー そういった前提の中で、菊地さんがお考えになる恋愛映画の良作を教えていただければと思います。

菊地:まずは、ジャン=リュック・ゴダールの『気狂いピエロ』。非常に難解な作品だと言われていますし、サスペンスの要素も入っていますけれど、観ている間ずっと恋がしたくなる。間接的な心中の物語なのですが、美しい悲劇的な結末に至るまでの夏の逃避行は夢のようで、舞い上がるような恋の喜びが映画中に横溢しているんです。
最近、デジタルリマスター版が公開された、イエジー・スコリモフスキ監督の『早春』は、これこそ恋愛映画であり青春映画であるという作品ですね。こちらもまた恋愛の果てに悲劇的な結末を迎える映画ではあるけれど、苦めの恋愛映画として紹介したいです。

ー いずれもクラシックな名作ですね。近年の作品ではいかがでしょうか?

菊地:『ラースと、その彼女』という作品があります。ある神経症的な理由によって、ラブドールを本物の恋人だと思い込む男をライアン・ゴズリングが演じているのですが、脚本がすごく見事。相当泣かされましたね。ライアン・ゴズリングは今やスターになったけれど、この作品は彼のフィルモグラフィの代表作に含まれていないことが多く、ぜひ彼のファンの方に見ていただきたい。良質な恋愛映画だと思います。
そして『はじまりのうた』。これは、青春映画としても、恋愛映画としても相当よくできています。キーラ・ナイトレイが演じるミュージシャンは魅力的なヒロインなんだけど、マーク・ラファロ演じる音楽プロデューサーと結ばれそうで結ばれない。最終的に誰の恋も実らない映画なのですが、その実らなさ加減がすばらしい。さらに音楽が恋を彩っている。そういった映画はたくさんありますけど、近年の作品の中では飛び抜けたものがあると思います。
『ビューティー・インサイド』もすごくいい映画です。日々目覚めるごとに、美女や中年男、子供にまでも姿が変容してしまう男性がいて、一人の女性に恋をする。「性別や年齢などの外見的な要素を超えた恋愛ができますか?」ということを問うている映画で、ポストモダンというか、アイデアが効いていますよね。ペク監督はCMディレクターだったので、ひとつひとつの物や空間がものすごい解像度で美しく撮られていて、画面がとにかくきれいです。

信頼の置ける映画のセレクトショップ

菊地成孔 ー 『ビューティー・インサイド』や『はじまりのうた』は、J:COMでも観ることのできる作品です。菊地さんは基本的に映画館へ足を運ばれることが多いかと思いますが、ご自宅のテレビで映画をご覧になられることはあるのでしょうか?

菊地:子供時代を昭和に過ごしていますから、地上波のテレビで放送されていた吹き替えカット版の洋画は、ご飯をガツガツ食べるようにして観た最初の栄養分のようなものでした。ただ僕は、実家の両脇が映画館という環境で、そこに入り浸って育ったので、人と比べて映画館で映画を観ることが多かったんです。今も多いときはシネコンに週2回くらい行っていますしね。その次に映画を観るために利用しているのが、有料放送サービスです。映画のセレクトショップとしてのセンスを信用していますね。そこで放映されている知らない映画を予備知識なく観てもおもしろかったと思えることが多いんです。

ー 菊地さんはスマホやタブレットはお使いにならないそうですが、最近はそういった端末で映画をご覧になられる方も増えています。

菊地:僕がスマホもタブレットも持っていない理由は、それらを使い始めたら生活を侵食してしまうに決まっているから(笑)。僕の世代は、「いろんなことをして遊びたい」というバブル期の欲望の時代を謳歌したせいか、何かにはまりきってしまうことを怖いと感じている人が多いと思うんですよね。だから僕自身、映画も、本も、スポーツも、いろんなことが好きなんだけど、その中のひとつだけにどっぷり浸る暮らしはできない。一方で今は、何かの対象に夢中になって、仕事以外のすべてをそれに注ぎ込むことはむしろ誇らしいというか、潔いような感覚があるんじゃないでしょうか。

恋愛映画は、エレガントに恋愛の喜びを想起する

ー その“何かに熱狂している”状態というのは恋愛に近いように思えます。

菊地:そうですね。いわゆる「推し」に対して恋愛感情を投影するだけでなく、生活をすべて捧げてしまう状態も疑似恋愛と言えると思うんです。可処分所得と自由になる時間をひとつの対象に費やす、熱狂的な状態の多幸感は半端じゃないはずですよね。下手したら実際の恋愛よりも、恋愛をしているような気すらするかもしれない。今は、そうやって何かにはまることで、恋をしているような状態にある人が、たくさんいると思うんです。
だから、恋愛の喜びを感じるという意味でいえば、推しのSNSを見て楽しむ強力で直接的な恋愛度に比べると、先ほどもお話したように、映画における恋愛は、何か別の要素と結びついて描かれることが多いですから、相当複雑な回路を通っています。観ている間だけは恋愛をしている気分にさせて、終わったら日常に戻る。それは、人を恋愛という状態に擬似的にさせる力においては、相当エレガントというか、上品な行為と言えるかもしれないですよね。

12年振りの再始動SPANK HAPPY再始動後初のワンマンライブ決定!

『SPANK HAPPY presents <mint exorcist> Vol.1』
日程:2018年8月5日(日)
会場:AOYAMA ZERO(東京都渋谷区渋谷2-9-13 Aiia Annex Bld. B1F)
DOOR:17:00 START:18:00 to 20:00
前売:5,000円 当日:5,500円 ※別途ドリンク代500円

LIVE:SPANK HAPPY(Boss the NK & OD)
DJ:菊地成孔