もしも親が突然入院したら?その時、家族を襲う「お金」と「契約」の落とし穴とは?
公開日:2026年3月30日
本記事は掲載時点の制度に基づいています。
この記事の要約
直面する問題:親が突然入院し意思確認ができなくなると、家族であっても預金の引き出しや生活インフラ(通信・光熱費など)の名義変更手続きができなくなる。
資産凍結のリスク:認知症などで判断能力が低下すると、銀行口座が事実上凍結されるだけでなく、介護費用のために「実家を売る」ことすらできなくなる(資産凍結)。
今からできること:銀行の「代理人登録」や、親が元気なうちに財産管理を子に託す「任意後見制度」「家族信託」の活用を検討する。「お金」の話ではなく「いざという時の手続き」という切り口で、家族で話し合っておく。
家族を襲う資産凍結と3つの備え
「実家のお母さんが倒れて、救急車で運ばれた!」ある日突然、そんな連絡が入ったら、誰しも気が動転してしまうはずです。命の無事や病状の回復を祈りつつ、なんとか危機を脱して入院生活が始まると、ご家族にはもう一つの現実的な問題が重くのしかかってきます。
それは、「親のお金や契約」の管理です。
「親の入院費は、親の口座から出せばいいだろう」と思うかもしれません。しかし、実はそこに大きな落とし穴が潜んでいます。今回は、親が突然入院した際に直面する問題と、本当に怖い「資産凍結」のリスク、そして今すぐ始められる対策についてお話しします。
1. 直面する問題を把握する:
「家族だから」は通用しない壁
入院が長引けば、毎月の医療費の支払いに加え、誰もいなくなった実家の維持費など、お金のやりくりが必要になります。そんな状況で、親のキャッシュカードを持って銀行の窓口へ行っても、大きな壁にぶつかってしまいます。
銀行は原則として、「口座名義人本人」の意思確認ができないと、高額な出金や名義変更の手続きを受け付けてくれません。窓口で「親が倒れて寝たきりなので、代わりに私が」と正直に事情を説明しても、かえって「本人の意思が確認できない状態」と判断され、取引が制限されてしまうことがあるのです。
これは銀行だけではありません。固定電話や携帯電話、インターネット回線などの生活インフラサービスも同様です。「誰も使わないから名義変更したい」と思っても、契約者本人からの申し出でなければ手続きを進められず、基本料金だけが引き落とされ続ける……といったケースは決して珍しくありません。
下記は名義変更や名義変更の手続きが滞ってしまう具体的な項目です。大きく分けて以下の4つに分類されます。
- 公共料金・生活インフラ
- 電気・水道・ガス・固定電話・NHK(放送受信契約)
これらは誰も住まなくなった実家などで放置すると、基本料金などが引き落とされ続ける原因になります。
- 通信・デジタル・インターネット関連
- 携帯電話・スマートフォン・インターネットサービス(プロバイダ契約など)
- サブスクリプションサービス(有料の動画配信、音楽配信、定期購読など)
- SNSのアカウント
スマートフォンのロックが解除できないと、どのような有料サービス(サブスクリプション)を契約しているかの把握自体が困難になるケースがあります。
- 金融・決済関連
- クレジットカード
- クレジットカードに紐づく家族カードやETCカード
クレジットカードが名義変更できないと、カード払いに設定している他のサービス(公共料金やサブスクなど)の請求も継続してしまいます。
- 住宅・その他の契約
- 賃貸アパートやマンションの契約(借家契約)
- 生命保険などの各種保険契約
賃貸物件の場合、本人が入院や施設入所で不在になっても、名義変更手続きが完了するまでは家賃が発生し続けます。
【なぜ家族でも名義変更できないのか?】
これらの契約はすべて「本人とサービス提供会社との個別の契約」であるため、原則として契約者本人からの申し出(本人確認)が必要です。もし本人が認知症などで意思能力がないと判断された場合、窓口や電話口で家族が事情を説明しても「本人の意思が確認できない」として手続きを断られてしまう可能性が高く、これがご家族の大きな負担(資産や生活費の流出)に繋がります。
2. 資産凍結のリスクを知る:
「亡くなった後」よりも大変な現実
よく「親が亡くなると銀行口座が凍結される」と聞いたことがあると思います。ただ、亡くなった後であれば、当面の葬儀費用などを引き出せる「遺産分割前の相続預金の払戻制度(仮払い制度)」(引き出せる金額には上限あり。1金融機関あたり150万円など)という法的な救済措置が用意されています。
実は、本当に怖いのは「親が生きている間」の凍結なのです。
もし、入院を機に親の認知症が進行し、「意思能力を失った」とみなされてしまったらどうなるでしょうか。銀行口座は事実上凍結され、家族であってもお金を引き出すことはできなくなります。これを「資産凍結」と呼びます。
さらに深刻なのが、実家などの「不動産」です。「親が介護施設に入るための費用を、誰も住まない実家を売って捻出しよう」と考えても、所有者である親に売却の意思表示ができなければ、売買契約は結べません。実家という立派な資産があるのに、それを現金に変えられず、子どもが自分のお金を持ち出して介護費用を負担し続ける……という苦しい状況に追い込まれてしまうのです。
3. 今からできることは?
〜親が元気なうちの「手続き」の準備〜
こうした事態を防ぐには、親が元気で、はっきりとした意思表示ができる今のうちに対策をしておくことをおすすめします。
- 銀行の「代理人指名制度」を利用する
多くの金融機関では、あらかじめ家族を「代理人」として登録できるサービスを用意しています。親が元気なうちにこれを済ませておけば、万が一親が入院し動けなくなった場合でも、登録された家族が窓口で手続きできるようになります。まずは親のメインバンクにこうした制度があるか、確認してみましょう。 - 「任意後見制度」の利用を検討する
将来、認知症などでご自身の判断能力が不十分になった時に備えて、あらかじめ自分が選んだ信頼できる人に、財産管理や生活の支援を任せる「任意後見人」を指定しておく制度です。後述する「法定後見制度」(判断能力が低下した人を法的に保護する制度)と同じく成年後見制度の一つで、依頼する人と受任者が一緒に公証役場に出向いて契約します。(事前のアポイントメントが必要) - 「家族信託」を検討する
実家の売却や、長期間にわたる財産管理まで視野に入れるなら、「家族信託」という仕組みもあります。これは、親が元気なうちに、信頼できる家族(子どもなど)に財産の管理権限を託しておく契約です。将来、親が認知症になってしまっても、託された子どもの権限で預金を引き出したり、実家を売却したりと、親のための柔軟な生活サポートが可能になります。ただしこの「家族信託」は、法的な手続きや契約内容が複雑なため、個人だけで設定することは極めて困難です。
手続きを進めるには、司法書士や税理士、行政書士など実務経験が豊富な専門家に任せるのが一般的です。契約の仕組みを設計するための専門家(司法書士や弁護士など)への報酬や、公正証書作成手数料(公証人役場)、不動産の信託登記にかかる費用などが発生します。アパート経営をしている方や多額の資産運用をされている方など、大きな財産がある場合にはおすすめの仕組みですが一方で、「主な財産は自宅と少しの預貯金のみ」といったシンプルな財産構成の方にとっては費用対効果が合わない場合もあります。本当に必要な仕組みかどうかは、専門家に相談をすることをおすすめします。
参考)家族信託の基本的な仕組み
【注意すべきポイント】
「代理人指名制度」「任意後見制度」「家族信託」は、親に十分な判断能力がある「元気なうち」にしか契約することができません。すでに認知症が進行し、意思能力を失ってしまっている場合は利用できず、代わりに家庭裁判所が関与する「成年後見制度」を利用することになります。
参考)「成年後見制度」とは?
- 「お金」ではなく「手続き」の話として切り出す
「認知症になったら困るから」と親にお金の話を切り出すのは勇気がいることです。そんな時は、「この前、J:COMのサイトで読んだけど、入院した時に本人が電話できないと、ネットや電話の名義変更ができなくて困る人が多いらしいよ」「もしもの時に私が代わりに動けるように、銀行の代理人登録だけしておかない?」というように、「親を助けるための事務手続きの準備」として提案してみてください。親の抵抗感も和らぐはずです。
上記の手続き以外にも、サブスクリプションやネットの契約は、本人のスマホが開けないと契約状況すら把握できず、名義変更が難航します。さらに、スマホのパスコードがわからないと、ネット銀行や証券口座の存在すら気づけないこともあります。生前に「エンディングノート」へ、加入しているサービスの詳細や、ログインID・パスワード、暗証番号などを書き残しておくことで、万が一の際のご家族の負担を大きく減らすことができます。
困ったときは、一人で抱え込まずに相談を
「うちの場合はどう対策すればいい?」「家族信託って難しそう」と感じたら、まずはJ:COMの「相続そうだん」コンシェルジュにご連絡ください。一般的な遺言・相続のご相談から、家族信託をサポートする企業のご紹介まで、幅広くお手伝いいたします。入院や介護はある日突然やってきますが、備えは今日から始められます。大切なご家族の安心を守るために、まずは小さな一歩を踏み出してみませんか。
参考
○家族信託の基本的な仕組み
家族信託では、主に以下の立場の人が登場します。
委託者(いたくしゃ):財産を託す人 ご自身の財産を持っており、将来に備えてその管理を任せる人(例:親)。
受託者(じゅたくしゃ):財産を託され、管理する人 委託者から財産の管理権限を託され、あらかじめ決められた目的に沿って実際に財産を管理・運用する人(例:子ども)。
受益者(じゅえきしゃ):財産から利益を受け取る人 受託者から管理・運用する財産から生じる利益(実家に住む権利や生活費の給付など)を実際に受け取る権利を持つ人。
「家族信託」は、委託者である親が、受託者である子どもと契約を結び、あらかじめ決めた目的(例:親の介護費用や生活費を捻出するため)の範囲内で、子どもが財産を管理できるようになります。親が認知症などで意思能力を失った際に起こる「資産凍結」を防ぐことがこの仕組みのメリットです。
○「成年後見制度」とは?
すでに本人の判断能力が低下してしまっており、家族信託などの事前対策もしていない場合は、家庭裁判所に申し立てて「成年後見人」を選任してもらう必要があります。成年後見人が選任されれば、本人の代わりに賃貸の名義変更や各種法的手続きを行うことが可能になります。
ただしこの制度は、「後見人は家庭裁判所が選ぶため、必ずしも家族が選ばれるとは限らない」「月々の報酬(費用)が発生し続ける」ので、注意が必要です。
本記事は掲載日時点の法令・制度に基づいて作成しています。法改正等により内容が変更されている場合があります。正確な情報や具体的な手続きについては、最新の法令をご確認いただくか、専門家へご相談ください。
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