賃貸マンションを相続するとどうなる?体験談から学ぶ「親が準備すべきこと」
公開日: 2026年9月24日
賃貸マンションを相続する前に家族で話し合っておくことが大切
賃貸マンションやアパートといった収益物件は、家賃収入を生み続ける資産です。一方で、相続をきっかけに管理や税務、名義の変更など、多くの判断や手続きが必要になります。遺言書がない場合は遺産分割協議も必要となり、賃貸マンションを誰が引き継ぐのかをめぐって判断に迷うこともあるでしょう。本記事では、父の急逝をきっかけに賃貸マンションを相続した体験談をもとに、相続後に起こりやすい負担や手続きの流れ、そして相続に備えて生前に準備しておきたいポイントを専門家の視点も交えて解説します。
賃貸マンションを相続したらどうなった?
知っておきたい混乱の理由
東京都 Iさん(42歳・会社員)
昨年父が亡くなり、父が所有していた賃貸マンションを相続することになりました。突然のことで気持ちの整理がつかないまま、葬儀や各種手続きに追われる日々が始まりました。
慌てて遺産を確認すると、主な財産は自宅と生活用の預貯金口座、投資用の賃貸マンション1棟、家賃収入を管理する専用口座でした。父は遺言書を残していなかったため、私と弟は母を交えて遺産分割協議を行うことになりました。
話し合いの結果、自宅と生活用の預貯金口座は母が相続することで早々に合意できましたが、問題は賃貸マンションでした。遺言書がないなかで、収益を生む賃貸マンションを誰がどのように引き継ぐのかを決めなければなりません。
このときはまだ、賃貸マンションを相続すると、これほど多くの判断や手続きが必要になるとは思っていませんでした。
遺産分割で賃貸マンションを単独名義で相続した
賃貸マンションについては、売却して現金化し、代金を分け合うという選択肢もありました。しかし、私も弟も「収益性のある資産を手放したくない」という思いがあり、売却せずに残すことを望みました。管理は管理会社に任せているのだから、大きな負担にはならないだろうと考えていたからです。
話し合いの結果、賃貸マンションは兄である私が単独で相続することになりました。弟との公平を保つため、ほかの財産との分け方も含めて調整し、私が賃貸マンションの管理を引き継ぐ形で合意しました。
専用口座には毎月家賃収入が入り、そこから管理費用やローンの返済が行われます。父が団体信用生命保険(団信)に加入していなかったため、ローンの残債は気になりましたが、「家賃収入で返済できているなら大丈夫だろう」と、深く検討しないまま相続を進めてしまいました。
当時は、管理会社に任せておけば大きな負担にはならないと考えていたのです。しかし、相続後は賃貸マンションの管理や各種手続きでさまざまな判断を求められ、想像していた以上の負担があることを知りました。
煩雑なマンション管理に期限がある税務など、
想定外の負担が発生
まずは、相続の手続きを進めるなかで、管理会社との契約の名義変更、賃貸専用口座の名義変更、修繕の要否判断、入居者対応など、賃貸経営に関わる実務が次々と発生しました。私には、賃貸経営の経験がまったくありません。平日の日中に管理会社から電話がかかってきても、仕事中ですぐに対応できないこともしばしばで、想像していた以上に負担を感じました。
さらに追い打ちをかけたのが、期限が決まっている税務手続きでした。父が生前、賃貸収入について毎年確定申告をしていたため、亡くなった年の所得について「準確定申告」を行う必要があります。これは相続の開始を知った日の翌日から4カ月以内に済ませる必要がありますが、私は会社員で、確定申告を行ったことがありません。
加えて、相続税の申告準備も必要だと知りました。まさかここまで多くの手続きが同時に発生するとは思わず、自分たちだけでは手に負えないと判断し、慌てて税理士に相談しました。
税務については専門家の力を借りてなんとか対応できたものの、賃貸マンションの管理は相続手続きが終わっても続きます。その後も修繕や管理会社とのやり取りなどが続き、試行錯誤しながら対応しているのが現状です。
賃貸マンションの相続では家族で今後の方針を話し合うことが大切
賃貸マンションを相続すると起こりやすい
3つの注意点を解説
賃貸マンションを相続すると、管理会社に委託していてもオーナー自身の判断が必要になるほか、準確定申告や相続税の申告など、さまざまな対応が求められます。相続手続きと賃貸経営に関する実務を並行して進める必要があるため、事前に注意点を把握しておくことが大切です。
ここでは、賃貸マンションを相続した際に起こりやすい3つの注意点を解説します。
管理会社に任せていても「オーナーの判断」が欠かせない
管理会社にマンション管理を委託していても、賃貸経営に関するすべての判断を任せられるわけではありません。管理会社が担当するのは、主に日常的な巡回や入居者対応、家賃の集金、軽微な修繕の手配などです。一方で、修繕の要否や費用負担、長期修繕計画、設備の更新時期、空室対策の方針、管理会社への指示といった経営判断は、オーナーである相続人自身が行う必要があります。
たとえば「給湯器を交換すべきか」「外壁の修繕をどこまでやるか」といった判断は、管理会社からの提案を受けたうえで、最終的にはオーナー自身が決めなければなりません。こうした判断事項が多いため、賃貸経営の経験がない相続人は、判断に迷う場面も少なくありません。
準確定申告は相続の開始を知った日の翌日から
4カ月以内に必要
準確定申告とは、年の途中で亡くなった人に確定申告が必要な場合に、本人に代わって相続人が、その年の1月1日から死亡した日までの所得金額や税額を計算して申告・納税する手続きです。相続の開始を知った日の翌日から4カ月以内に行う必要があります。
確定申告が必要かどうかは、所得の種類と金額で判断します。給与所得者でも、給与所得や退職所得以外の所得(不動産所得・事業所得・雑所得など)が一定額を超える場合は確定申告が必要です。賃貸マンションのオーナーは家賃収入があるため、所得状況によっては確定申告を行う必要があります。
そのため、賃貸マンションのオーナーが亡くなった場合は、生前の所得状況を確認し、準確定申告が必要かどうかを判断しなければなりません。申告では、家賃収入や必要経費などを確認する必要があるため、4カ月という期限を意識して早めに準備することが大切です。
相続税申告の際の賃貸マンションの評価は
専門知識がないと難しい
相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内です。賃貸マンションは、自宅など自分で使用する不動産とは評価の考え方が異なります。同じ広さの物件でも、借家権割合や賃貸割合など複数の要素によって評価額が変わるため、専門知識がない場合、正確に算出するのは容易ではありません。
加えて、相続税は原則として金銭で一括して納付する必要があるため、納税資金の確保も重要です。評価方法や申告準備に不安がある場合は、早めに税理士などの専門家へ相談するとよいでしょう。
賃貸マンションを共有名義で相続する場合の注意点
賃貸マンションを複数の相続人で相続する場合、共有名義とする方法もあります。ここでは、賃貸マンションを共有名義で相続する場合の注意点を解説します。
賃貸マンションを共有名義で相続するケース
遺言書がなく、相続人が複数いる場合などは、相続人全員で遺産分割協議を行い、財産の分け方を決めます。賃貸マンションを一人の相続人が取得すると、ほかの相続人との公平性を考慮して調整が必要になる場合があります。
こうした場合には、複数の相続人による「共有」という方法があります。
ただし、共有名義では管理や処分の際に共有者間の合意や調整が必要になる場合があります。そのため、将来の管理や承継まで考えて判断することが重要です。
なお、共有以外の方法として、不動産を取得した相続人が、ほかの相続人に代償金を支払う「代償分割」を選ぶケースもあります。
意思決定には共有者との合意や調整が必要
共有名義の不動産では、修繕や管理、売却などを行う際、その内容に応じてほかの共有者との合意や調整が必要になります。単独所有と比べて共有者間で調整する場面が増えるため、あらかじめ管理や運営について共有者同士で方針を確認しておくことが大切です。
出典)
法務省「共有制度の見直し」
各種手続きでは代表者が必要になる場合がある
共有名義の不動産では、契約手続きの際に代表者を決める必要が生じる場合があります。たとえば、火災保険では、保険会社によって、共有者全員を被保険者とし契約者は代表者1人とする場合があります。こうした契約は、相続によって建物の所有者が変わった際に変更手続きが必要です。具体的な取り扱いは保険会社などによって異なるため、共有名義になった場合は、代表者が必要かどうか事前に確認しておきましょう。
賃貸マンションを相続したら?
相続開始からの主な流れ
賃貸マンションを相続すると、相続開始後は管理会社への連絡や相続人・財産の確認、名義変更、税務申告など、さまざまな対応が必要になります。それぞれの手続きには期限や適切なタイミングがあるため、時期ごとに整理して進めることが大切です。
ここでは、相続開始後の主な流れを6つの時期に分けて解説します。
相続の開始を知った日の翌日からの主な手続きの流れ
第1期(相続開始~2週間)|死亡後の初期手続きと
賃貸マンションの状況確認
死亡届の提出や年金の停止、公共料金の名義変更など、生活面での初期手続きに追われる時期です。あわせて、賃貸マンションについても、早めに状況を確認する必要があります。管理会社に委託している場合は相続が発生した旨を連絡し、入居者トラブルの有無や修繕予定がないかを確認します。管理会社に委託していない場合は、入居状況や家賃の入金状況、修繕・設備トラブルの有無、入居者との連絡方法などを確認しておきましょう。あわせて、賃貸専用口座の入出金状況もチェックしておきましょう。
この段階で必要な状況を把握しておくと、その後の名義変更や賃貸管理を進めやすくなります。賃貸経営は相続中も続くため、早い段階で状況を確認しておくことが大切です。
第2期(~1カ月)|相続人・財産を確認し方針を決める
遺言書があるかどうかを調査し、相続人を確定するために戸籍謄本を収集する時期です。不動産や預貯金、保険などの財産を洗い出し、遺言書がない場合は遺産分割協議を始めましょう。
賃貸マンションについては、誰が相続するのか、売却するのかなど、今後の方針についても相続人同士で話し合っておきましょう。共有名義で相続する可能性がある場合は、その後の管理方法や役割分担についても整理しておくと、相続後の手続きを進めやすくなります。
第3期(~3カ月)|管理会社や契約・口座の名義変更を進める
管理会社との契約変更、賃貸専用口座の名義変更、火災保険・地震保険の名義変更などを進める時期です。あわせて、修繕の判断や設備更新の方針も整理しておきます。名義変更には必要書類も多く、金融機関や保険会社によって求められる書類が異なるため、事前に確認しておくと二度手間を防げます。
また、不動産を相続した場合は、相続による名義変更登記も必要です。相続によって不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務付けられているため、忘れずに手続きを進めましょう。
第4期(~4カ月)|準確定申告を行う
亡くなった人のその年の所得を、相続人が代わりに申告する準確定申告を行う時期です。相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内という期限があり、生前に確定申告が必要だった場合は、家賃収入や必要経費などを確認して申告を進めます。必要書類の収集などもあるため、早めに準備しておくことが大切です。
第5期(~10カ月)|相続税申告と納税準備を進める
相続税の申告が必要な場合は、申告期限である10カ月に向けて、納税準備を進めます。賃貸マンションの敷地を貸家建付地として評価する場合は、借地権割合や借家権割合、賃貸割合など複数の要素が関わるため、評価方法が複雑になりがちです。
あわせて、相続税は金銭で期限までに一括納付することが原則です。なお、一定の要件を満たす場合には延納が認められ、延納によっても金銭で納付することが困難な場合には、物納を利用できることがあります。納税資金に不安がある場合は、早めに税理士などへ相談するとよいでしょう。
出典)
・国税庁「No.4614貸家建付地の評価」
・国税庁「No.4211相続税の延納」
・国税庁「No.4214相続税の物納」
第6期(10カ月以降)|賃貸マンションの管理と運営を続ける
相続税の申告が終わっても、賃貸マンションの管理はそこで終わりではありません。修繕計画や設備更新の判断、管理会社とのやり取り、空室対策、そして売却するか持ち続けるかの検討など、経営に関する対応は引き続き必要です。税務手続きが一段落したあとも、マンションの管理にかかる負担は残り続けることを念頭に置いておきましょう。
賃貸マンション相続に備えて
生前に準備しておきたいこと
賃貸マンションの相続では、管理・名義変更・税務への対応が重なり、混乱しやすいものです。しかし、生前に最低限の情報を整理しておくだけで、相続人が相続後の手続きを進めやすくなります。
相続に必要な書類の保管場所を家族へ伝える
登記簿謄本や固定資産税の納税通知書、保険証券、管理会社との契約書など、不動産の相続手続きに必要な書類は多岐にわたります。これらは相続後の各種手続きで確認が必要になるため、あらかじめ一覧にまとめ、保管場所を家族に共有しておきましょう。
書類の保管場所が分からないと、必要書類を探したり再取得したりする手間が生じ、手続きが遅れる原因になります。
管理会社や修繕履歴など賃貸管理の情報をまとめておく
管理会社の連絡先や管理委託契約書、修繕履歴や今後の修繕計画、給湯器やエアコンといった設備の交換時期、賃料や入居状況の一覧など、日常的な管理判断に必要な情報もまとめておくと安心です。エクセルやノートに一覧化しておくだけでも、相続人が経営の全体像を把握しやすくなり、判断のスピードが上がります。
賃貸経営の方針や管理の考え方を残しておく
どこまで修繕するべきか、設備更新のタイミングをどう考えるかといった判断基準は、オーナーによって異なります。「空室が出たらリフォームまでするのか」「家賃を下げてでも早期に埋めるのか」など、これまでの経営方針や管理会社とのやり取りの経緯を書き残しておくことで、相続人が判断に迷う場面を減らせます。
税理士など相談先を家族へ共有する
賃貸マンションの確定申告や相続税などについて、税理士に相談している場合は、その連絡先を家族に伝えておきましょう。複数物件を所有している場合や法人化している場合などは、これまでどのような相談をしてきたのかも簡単にメモしておくと、相続人が相談を引き継ぎやすくなります。
税理士に相談していない場合は、相続発生後に相談先を探すことも想定し、どこへ相談するかをあらかじめ考えておくと安心です。
遺言書やエンディングノートで承継方針を明確にする
遺言書で賃貸マンションを誰に相続させるかなど、財産の承継方針を明確にしておけば、相続開始後の遺産分割をめぐる混乱を防ぎやすくなります。また、「誰に管理を担ってほしいか」「売却するか、持ち続けてほしいか」といった希望や賃貸経営の方針を家族に伝えておくことも大切です。
さらに、エンディングノートに管理方針や希望を書き残しておけば、家族が本人の意向を知る手がかりになります。
賃貸マンションの管理方針や希望を家族に残しておくことも大切
賃貸マンション相続は一人で抱え込まず
専門家に相談を
ここまで、賃貸マンションを相続した体験談をもとに、生じやすい負担や手続きの流れ、生前に準備しておきたいことを見てきました。賃貸マンションの相続では、何を準備すべきかがそれぞれの家庭の状況によって異なります。管理体制や相続人の状況、税務の複雑さなどによって、必要な対応は変わってくるからです。まずは状況を整理し、必要に応じて専門家への橋渡しをしてもらえる総合的な窓口に相談すると安心です。
「何から手をつければいいか分からない」「どんな専門家に頼めばいいか分からない」と迷ったら、一人で抱え込まず「J:COM 相続そうだん」をご活用ください。
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相続が発生してから慌てるのではなく、気になったタイミングで早めに相談してみることをおすすめします。
本記事は掲載日時点の法令・制度に基づいて作成しています。法改正等により内容が変更されている場合があります。正確な情報や具体的な手続きについては、最新の法令をご確認いただくか、専門家へご相談ください。
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