「おひとりさま相続」は他人事ではない?子どものいない夫婦も考えておきたい生前対策
公開日: 2026年9月16日
おひとりさまの相続問題と対策を解説
「おひとりさま」と聞くと、独身で一人暮らしをしている人をイメージするかもしれません。しかし、子どものいない夫婦も、配偶者に先立たれれば「おひとりさま」になる可能性があります。なかには「自分の死後、財産は誰が相続するのだろう」「死後の手続きをしてくれる人がいないかもしれない」と不安を感じている方もいるでしょう。
おひとりさまの相続では、あらかじめ考えておきたいさまざまなことがあります。この記事では、おひとりさまの相続で生じやすい課題や、生前にできる4つの対策についてわかりやすく解説します。
おひとりさまの相続とは?
「おひとりさま」の相続では、法定相続人がいるかどうかだけでなく、相続や亡くなった後の手続きを任せられる人がいるかどうかも重要なポイントです。もし、父母や兄弟姉妹などが法定相続人になったとしても、長年疎遠になっているなど、実際には頼れる親族がいないケースもあります。
おひとりさまとはどのような人?
おひとりさまには法律上の定義はありません。一般的には、独身者や配偶者・子どもがいない人、一人暮らしの人などを指します。また、子どもがいない夫婦でも、配偶者に先立たれた場合はおひとりさまと同じ課題をかかえることになります。
ただし、「おひとりさま」に該当する人であっても、必ずしも法定相続人がいないとは限りません。相続人が誰になるかは、家族関係によって異なります。
おひとりさまの相続で生じやすい課題
おひとりさまの相続では、主に次のような課題が生じることがあります。
- 法定相続人が誰なのかわからない
- 疎遠だった親族が相続人になる
- 婚姻関係のないパートナーや親しい友人が法定相続人になれない
- 預貯金や保険、不動産などの財産が把握できない
- 遺言書がないと、希望する人に財産を渡せない
- 葬儀や住居の明け渡しなど、死後の手続きを任せる人がいない
おひとりさまの相続人は誰になる?
おひとりさまの相続人は誰?
おひとりさまの場合、長年会っていなかったとしても、父母や兄弟姉妹などが法定相続人になることがあります。一方で、婚姻関係にないパートナーは、たとえ長年一緒に暮らしていたとしても、法定相続人に含まれません。実際の生活上の関係と、法律上の相続の扱いが異なる点には注意が必要です。
法定相続人の確認方法と相続順位
法定相続人の範囲と順位は、民法で定められています。配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の親族は次の順位で相続人になります。
第1順位:子
第2順位:父母などの直系尊属
第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は甥「おい」・姪「めい」)
法定相続人を確認するには、戸籍謄本などを取り寄せる必要があります。相続手続きでは、お亡くなりになった方の出生から死亡までの連続した戸籍の収集が不可欠です。
なお、長年連絡を取っていない、どこにいるかわからない、言葉の上で「縁を切る」「勘当する」などと言い渡してある親族であっても、法定相続人としての権利がなくなるわけではない点に注意しましょう。
婚姻関係のないパートナーが法定相続人にならない理由
事実婚や内縁関係などの婚姻関係のないパートナーであっても、社会保障制度などでは一定の要件を満たすことで、法律上の配偶者と同様に扱われる場合があります。たとえば、遺族年金では、一定の要件を満たす事実上の婚姻関係にある人が受給の対象となるケースも存在しています。
一方、民法では、法定相続人となる配偶者は「法律上の婚姻関係にある人」と限定されており、事実婚や内縁関係のパートナーは法定相続人には含まれません。長年一緒に暮らしていた場合や、周囲から夫婦として認識されていた場合でも、同様です。
このように、社会保障制度上の「配偶者」と、民法上の「配偶者」では扱いが異なる場合があります。
法定相続人以外にも財産を残せる?
法定相続人ではない人や団体などに財産を残したい場合、遺言による「遺贈」が選択肢になります。事実婚のパートナーや親しい友人に財産を残せるほか、NPO法人や公益法人などに財産を寄付する「遺贈寄付」も可能です。
ただし、遺言は法律で定められた方式に従って作成する必要があります。形式に不備があると希望通りに財産を残せない可能性があるため、内容や方式に不安がある場合は、専門家に相談しながら準備するとよいでしょう。
また、遺言書とは別に、当事者間で「死因贈与契約」を結び、自分が死亡したときに財産を贈与する方法もあります。
おひとりさまの相続財産はどうなるの?
おひとりさまの相続財産の行方と生じやすい問題点
おひとりさまの相続では、財産の把握不足や、財産の行き先が明確になっていないことなどが課題になる場合があります。また、本人しか存在を把握していなかった預貯金や不動産など、相続人に見落とされる財産が生じる可能性にも注意が必要です。
相続人がいる場合といない場合では、相続財産の行方や必要な手続きも異なります。ここでは、おひとりさまの相続財産がどのように扱われるのかを確認しましょう。
相続人がいる場合の相続手続き
相続が始まると、まず誰が相続人なのかを確認し、遺言書が残されているかを調べます。
そのうえで相続財産を調査しますが、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含める点に注意が必要です。遺言書がない場合は、原則として相続人の間で遺産分割について話し合います。
長年疎遠だった親戚が突然相続人となり、預貯金だけでなく借金などの負債があることがわかった場合、相続するかどうかの判断に悩むこともあるでしょう。負債が大きく相続することで損失が生じる可能性がある場合などは、相続を放棄することもできます。ただし、相続放棄には相続を知ってから3カ月以内という期限があるため、早めの検討が重要です。なお、後から借金が判明した場合など、事情によっては3カ月を過ぎていても相続放棄が認められることがあります。また、家庭裁判所に期間延長を申し立てることも可能です。
相続人がいたとしても、亡くなった方の財産を把握できなければ、相続の手続きがスムーズに進まないことがあります。
財産の把握不足で起こりやすい問題
たとえば、複数の金融機関に預貯金口座を持っていたり、生命保険に加入していたりしても、周囲の人がその存在を知らなければ、手続きを始められない可能性があります。ただし、事実婚のパートナーが口座や保険の存在を知っていたとしても、法定相続人や契約で指定された受取人でなければ、手続きを行う権利はありません。相続人や受取人など、手続きを行える人に情報を伝えておくことが大切です。
不動産については、2026年2月から法務省で「所有不動産記録証明制度」が始まり、相続人などが故人の所有不動産を一覧で確認できるようになりました。ただし、登記上の所有者として記録されている不動産が対象となるため、すべての財産を把握できるわけではありません。
こうした財産の把握不足を防ぐには、生前から自分の財産や契約状況を整理しておくことが大切です。
相続人がいない場合、相続財産は最終的にどうなる?
法定相続人がいない場合、まず家庭裁判所に選任された相続財産清算人が債務や必要な支払いなどを整理します。その後、残った財産については、一定の条件を満たす特別縁故者への分与が認められることがあります。
特別縁故者とは、内縁の配偶者や長年にわたって看護・介護をした人、生計を同じくしていた親族や友人などが対象です。ただし、誰もが財産を受け取れるわけではありません。家庭裁判所に申請し、認められる必要があります。
なお、特別縁故者への分与後に残った財産は、最終的に国庫に帰属します。近年、相続人がおらず国庫に帰属する財産が増えています。日本総研のレポートによると、2024年には相続人不存在により国庫に帰属した金銭等が1,292億円に上り、10年前の約3倍でした。自分の財産を希望する人や団体に残したいのであれば、生前からその方法を考えておくことが重要です。
おひとりさまの死後の手続きは誰が行う?
おひとりさまの死後の手続きとは?
おひとりさまの場合、相続だけでなく、死後の事務手続きを誰が行うのかも考えておく必要があります。ここでは、誰がどのように被相続人の死亡を把握し、相続人への連絡やさまざまな手続きを進めるのかを確認しましょう。
親族と疎遠の場合、死亡後の連絡はどう行われる?
病院や介護施設などで亡くなった場合は、入院・入所時に登録された緊急連絡先などへ連絡が行われることがあります。自宅で亡くなった場合も、発見した人から医師や警察などに連絡し、必要な確認が行われたのち、親族などへ連絡が取られることがあります。
親族と長年連絡を取っていない場合や身寄りがない場合には、誰に連絡すればよいのかがすぐにはわからないこともあるでしょう。そのため、緊急連絡先や親族の連絡先などを整理して、メモのありかを玄関先に表示しておく、冷蔵庫に貼っておくなどの配慮をしておくことが大切です。
死後の手続きを行う人がいない場合はどうなる?
死後には、相続以外にもさまざまな事務が発生します。たとえば、次のようなものです。
- 葬儀や納骨の手配
- 住居の明け渡しや家財の整理
- 公共料金や各種サービスの解約
- 医療費や施設利用料などの支払い
- 行政機関への各種届出
こうした生活面の片付けは、相続とは別に考える必要があります。対応できる人がいないまま亡くなると、誰がどの手続きを行うのかが問題になることがあります。そのため、おひとりさまの場合は「財産を誰に残すか」だけでなく、「死後の事務を誰に任せるか」も生前に決めておくことが大切です。
おひとりさまが生前にできる
4つの相続対策
おひとりさまがやっておきたい相続対策
おひとりさまの相続では、財産の承継や死後の手続きだけでなく、判断能力が低下した場合への備えも必要です。ここでは、生前にできる代表的な4つの対策を紹介します。
1.遺言書を作成する
遺言書とは、自分の財産を誰に残したいのかという意思を明確にするための文書です。法定相続人ではない事実婚のパートナーや友人、親族などに財産を残したい場合、遺言による譲渡の指定が欠かせません。遺言書を作成する際は、読み違いや混乱を防ぐために、財産の内容や誰に何を渡すのかをできるだけ明確にしておくことが大切です。
自筆証書遺言を作成する場合は、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用できます。自筆証書遺言書保管制度を利用すると、法務局で遺言書を保管されるほか、希望に応じてあらかじめ指定した人へ遺言書が保管されていることを通知できます。また、法務局で保管された自筆証書遺言は、家庭裁判所による検認が不要です。
ただし、自筆証書遺言の内容についてはチェックしてもらえません。遺言の内容や方式に不安がある場合は、専門家に相談しながら作成することも検討しましょう。
2.財産目録を作成・整理する
財産を誰かに残す場合、その財産がどこにあるのかわからなければ、遺言があっても手続きが進みにくくなります。スムーズな相続のため、預貯金や不動産、生命保険、証券などの財産を一覧にしておきましょう。
たとえば、次のような項目を一覧表にしておくと、死後に手続きをする人が財産を把握しやすくなります。
| 財産の種類 | 記載しておきたい内容の例 |
|---|---|
| 預貯金 | 金融機関名、支店名、口座の種類、通帳の保管場所など |
| 不動産 | 所在地、土地・建物の種類、関係書類の保管場所など |
| 生命保険 | 保険会社名、保険の種類、証券番号、証券の保管場所など |
| 有価証券 | 証券会社名、口座の種類、取引ID・パスワードなど |
| その他 | 貴金属・美術品・自動車の所在、関係書類の保管場所など |
財産だけでなく、借入金やローンなどの債務、契約しているサブスクリプションなどのサービス、SNSやメールなどのデジタル遺品、重要書類の保管場所なども書き出しておくと、死後の手続きが進めやすくなります。
こうした情報の整理には、エンディングノートを活用する方法もあります。ただし、エンディングノートには遺言書としての法的な効力はありません。財産をどうしたいのかといった希望を実現するためには、別途、遺言書を作成する必要があります。
3.死後事務委任契約を検討する
死後事務委任契約は、自分の死後に必要となる手続きを、あらかじめ指定した人に依頼しておくための契約です。たとえば、「葬儀や納骨の手配をしてほしい」「住んでいた家を退去するときの手続きをしてほしい」「電気や水道などの契約を解約してほしい」といった希望を、生前に契約で決めておきます。
依頼する相手は、信頼できる友人や知人のほか、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家、死後事務を扱う事業者です。本人が一方的に依頼する相手を決めるだけでは契約は成立せず、依頼を受ける側の合意も必要になります。誰に依頼する場合でも契約内容を書面にまとめ、どの手続きを任せるのかを具体的に決めておくことが重要です。
4.任意後見契約や家族信託を活用する
認知症などによって判断能力が低下すると、預貯金の管理や介護サービスの契約、不動産の管理などを自分で行うことが難しくなる場合があります。こうした将来に備える方法が、任意後見制度や家族信託です。
任意後見制度では、本人に十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が低下したときに財産管理や契約などを任せる「任意後見人」を自分で決めておきます。任意後見契約は公正証書で結び、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで、任意後見人による支援が始まります。
一方、家族信託は、本人が特定の財産を信頼できる受託者に託し、その財産を管理・運用してもらう仕組みです。たとえば、本人が元気なうちは自分のために財産を管理し、判断能力が低下した後も、あらかじめ決めた目的に沿って財産を管理してもらうことができます。
このように、任意後見制度と家族信託は、どちらも将来の判断能力低下に備える方法ですが、仕組みや利用できる場面は異なります。
| 任意後見制度 | 家族信託 | |
|---|---|---|
| 主な目的 | 財産管理・契約を支援する制度 | 判断能力が低下する前もその後も支援できる制度 |
| 利用開始 | 判断能力低下後、任意後見監督人選任後 | 契約で定めた時期・条件に応じて |
| 支援する人 | 本人が指定した任意後見人 | 本人が指定した受託者 |
| 対象 | 本人の財産管理や契約手続き全般 | 信託した財産のみ |
| 特徴 | 本人の希望に沿って支援者を決めておける | 財産の管理・処分方法を決めておける |
なお、判断能力が低下してからでは、任意後見契約や家族信託を結ぶことはできません。事前の備えがない場合、家庭裁判所に法定後見制度の利用を申し立てることがあります。法定後見制度では、家庭裁判所が成年後見人などを選任するため、本人があらかじめ後見人を指定しておくことはできません。
将来の財産管理について希望がある場合は、判断能力が十分にあるうちから、必要な制度を検討しておくことが大切です。自分の財産や生活状況、将来の希望などを踏まえ、専門家に相談しながら検討するとよいでしょう。
おひとりさまの相続は
専門家への相談が重要
おひとりさまの相続は専門家に相談しよう
おひとりさまの相続では、法定相続人の確認から財産の整理、遺言書、死後事務まで、複数の準備を並行して考える必要があります。特に、事実婚のパートナーや友人、お世話になった人など、法定相続人ではない人に財産を残したい場合には、生前から適切な方法を検討しておくことが重要です。
相続対策は早めの相談がおすすめ
相続や死後のことを考えるのは、まだ先の話だと思う方もいるでしょう。しかし、遺言書の作成や任意後見契約などには、本人の意思や判断能力が重要になります。元気なうちから少しずつ財産を整理し、自分の死後にどうしたいのかを考えておくことで、選択できる対策の幅も広がります。まずは財産の一覧を作る、法定相続人を確認する、信頼できる人に希望を伝えるなど、できることから始めることが大切です。
おひとりさまの相続はどこへ相談すればよい?
おひとりさまの相続では、遺言や相続だけでなく、死後事務や成年後見など、複数の制度が関係することがあります。相談内容によって、弁護士、司法書士、行政書士、税理士など、適した専門家は異なります。遺言や相続人とのトラブルについては弁護士、相続登記など不動産の手続きについては司法書士、相続税については税理士に相談するのが一般的です。どこに相談すればよいのかわからないときは、自治体や専門家団体、「J:COM相続そうだん」などの相続に関する相談窓口を利用する方法もおすすめです。
おひとりさまの相続は、残された人だけの問題ではありません。自分の財産や希望をどのように引き継いでもらうのか、そして自分が望む形で人生の最後を迎えるにはどう備えるのかを考える機会でもあります。早めに情報を整理し、必要に応じて専門家にも相談しながら、自分に合った方法で準備を進めておきましょう。
本記事は掲載日時点の法令・制度に基づいて作成しています。法改正等により内容が変更されている場合があります。正確な情報や具体的な手続きについては、最新の法令をご確認いただくか、専門家へご相談ください。
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